【事例記事】茨城✖︎副業 仕事を入口に、企業と地域の魅力を再発見する「iBARAKICK!」

【事例記事】茨城✖︎副業 仕事を入口に、企業と地域の魅力を再発見する「iBARAKICK!」

 昨今、働き方の多様化により、本業とは異なるフィールドで新たな出会いやスキルアップの機会に繋がる「副業」が大きな注目を集めている。そんな時代の流れを捉え、茨城県では「iBARAKICK!」という副業を通じた関係人口創出の取り組みを、2022年度より開始した。

「iBARAKICK!」は、大きく2つの取り組みが柱となっている。
1つは、地域企業の経営者が抱える課題を解決するプロジェクトに参画し、経営者と二人三脚で課題解決に取り組む「副業プロジェクト」。もう1つは、地域への理解を深め、地域内で挑戦を始めている企業や個人とつながる「地域ミッション」である。

今回、JOIN移住・交流&地域おこしフェアで行われたトークショーにて、本事業に関わる3名の方のお話を伺った。

左から順に、外資系香料メーカー勤務 北爪 麻世さん・茨城県政策企画部 計画推進課 植田賢さん・NPO法人ETIC. ローカルイノベーション事業部 伊藤淳司さん

―「仕事」を通して地域に貢献し、「課題」に向き合う中で地域愛を育むiBARAKICK!

iBARAKICK!に参加する人材は、茨城県外在住の方で茨城県や副業に関心がある方を対象としている。企業側が副業人材に業務委託を行う形で、共に企業や地域の課題解決に資する取り組みを実施する仕組みだ。基本的にはリモートで副業の活動を行いながら、月1回程度現地を訪問し、企業と対面での活動や地域ミッションを通して地域との交流を深めている。

本事業を受託するNPO法人ETIC.の伊藤氏は、iBARAKICK!の実施背景を次の様に語る。
「将来起業したいと考える人や、これまでやってきた経験を生かして地域に貢献していきたいと考える人も増えてきています。経営者の方々がやりたいなと思っていても中々できていないことがあって、それを副業の方と一緒にやっていこうという形で行っています。現在、15社の地域企業に、21名の副業人材が参加し、活動しています。」

今回人材を募集した副業プロジェクトは、企業から一方的に業務を委託する単純な業務委託ではない。双方向にコミュニケーションを取りながら、経営者が中々取り組めていないことをどう解決していくかを共に考え、2人3脚で活動を行う協働型のプロジェクトだ。副業人材は、今まで培ってきたスキル・経験・関心を活かすと同時に、地域の実情を踏まえながら施策を検討するため、活動の中で必然的に地域への理解や愛着を育む機会が形成されている。

トークショーには想定していた人数をはるかに上回る50名以上の参加者が集まった。

現在、この「iBARAKICK!」に参加しているうちの1人が、外資系香料メーカーの社員としても働く北爪氏だ。彼女は、神栖市を中心に14店舗を展開する有限会社谷川クリーニングのプロジェクトに参加し活動している。

イベントに登壇した北爪氏に、iBARAKICK!への参加経緯や取り組みの内容、自身が感じたiBARAKICK!の価値について語った。

―仕事を通じて、茨城に貢献しながらディープに関わる

 北爪さんが副業に取り組むきっかけとなったのは、Instagramの広告だったそうだ。元々茨城県が好きで、日常的に茨城を訪問していた北爪氏だったが、いまよりもっとディープに茨城に関わることができる機会を探しており、広告で流れてきたiBARAKICK!に興味を持ち応募した。

受入企業である有限会社谷川クリーニングは、どこにでもある普通のクリーニング店ではない。あえて仕組みやルールを取り入れず、社員自ら考え行動する自律分散型の経営スタイルを採用。この経営スタイルが評価され、2020年に茨城県初のホワイト企業大賞を受賞した企業だ。

しかしこのような社風がゆえに、組織にフィットする人材の採用には時間がかかる。採用に多くの時間を費やしたとしても、すぐに退職してしまう人もいるのが実情だった。

この課題に対し、イベントの企画・運営を得意とする人材や、人事のプロが副業として参加しているが、北爪氏はBtoBのメーカー勤務を本業としており、本業の立場を活かした関わり方ではなく一般消費者に近い目線で施策の方向性や正当性に助言を行っているという。

谷川クリーニングの社風に合う人材を効率的に採用するためにはどうすればいいのか。日々活動の中で議論を重ね、北爪さんと共に副業を行っている2名のメンバーは、谷川クリーニングが持っている課題に対し、解決策を都市部の人材がグループワークでディスカッションし、提案するセミナー形式のイベントの開催を企業に提案した。イベントの開催に向け、現在準備を進めているという。(2023年1月14日現在)

―共に地域に関わる仲間との出逢いが、自分の世界を広げた

 本業である香料メーカーとは全く異なるクリーニング店での副業。そして、縁もゆかりもなかった神栖市での出会い。この経験が本業に直接役立つわけではないが、本業ではできない経験ができることに大きな魅力を感じているとのこと。

「本業やプライベートでは出会えないような人達と一緒に、何か目的を持って議論し考えることが本当に刺激的でした。ただ自分のスキルを役に立てて、それを報酬としてもらう普通の仕事の関係とは違うところが非常に楽しいです。」と北爪氏は語る。

​​​​谷川クリーニングでは、同時に3名の副業人材が参加している。北爪氏にとっては、企業だけでなく、共に協力しながらプロジェクトを進めていく仲間との出会いも刺激になっているようだ。

茨城愛について語る北爪さん

―地域の魅力を再発見し、外と内をつなぐ媒介に

そして、副業を始めてから茨城愛が更に強まったという声もあった。
2年前から、個人的な観光で月に1回水戸に来ていたそうだが、どのような変化があったのか。

「特急も綺麗で速いし、来てみると美味しい納豆と美味しい干し芋とプリンがある。茨城って美味しいものもたくさんあるじゃん!って気づいて、よくよく話を聞くと袋田の滝もあるし海もある。なんだろうこの魅力的な県は!」と、当初茨城に感じていた印象を語った北爪氏。iBARAKICK!を知ったのはそんな矢先。Instagramの広告を見るなり、すぐに応募する決意をした。

副業を始めて以来、水戸とは違った谷川クリーニングの本社のある神栖の魅力を知る。当初、北爪氏は水戸にこそ通っていても、神栖に関する知識はゼロだった。しかし、iBARAKIKC!を通して現地に訪問する中で感じた魅力を、以下の様に語った。

「神栖に住む人々は『神栖には何もない』というが、日本国内でも人気なスターバックスがあるなど、良いところはたくさんある。『何かある田舎』が集積しているのが茨城なのだと感じている」と、自分なりに神栖の良さを感じていた。

北爪氏は、月に1回程度神栖を訪問し副業と平行して地域を満喫しているが、地域の中の人が認識できない魅力を、外の視点から再評価していた。副業プロジェクトについても、企業側が認識できていない企業の強みを外部の視点から可視化し、事業活性化に活かすという側面があるが、地域の魅力という観点でも、同様に得られる気付きがあったようだ。

現に北爪氏は最後に、関係人口という視点から自身の立場を次のように語った。
「地域に対して愛着を持つということが関係人口の要素であるならば、自分はそうだと思う。今直ぐに移住というわけではないが、外にいるからこその視点で茨城の魅力を再発見し、外と茨城を繋ぐ媒介にはなれるのではないかと思って活動している」

iBARAKICK!は、外の人材が県内の企業との協働や、協働の過程や地域ミッション等を通して地域と繋がることにより、茨城への愛を育んでいくプログラムである。北爪氏の様に、プロジェクトを通して企業や地域に貢献することに加え、自身が媒介となり、感じた茨城の魅力を外に伝えることで更なる関係人口の輪が広がっていくことに今後も期待したい。
(執筆:事務局/粟井)